GW後半、FacebookやTwitter上に頻繁に流れてきた記事がありました。
2014年5月5日日経新聞2面 |
慎さんの新刊『外資系金融のExcel作成術』の5月5日付日経新聞掲載の広告に関して、版元である東洋経済新報社との間にあったやり取りが書かれていました。
該当記事リンク⇒ 「東洋経済の本の広告について」
詳細は上記のリンク先を見ていただければわかりますが、新聞広告の内容に問題があり、また今後の自分の事業遂行上にも差しさわりがあることを説明して広告掲載3日前に変更要請を出したが、「期日を過ぎているので難しい」と変更が認められなかった、ということでした。
■多くの人に読んでほしい、という想いは共通する
企業である以上、出版社が売上を求めるのは当然のことです。一方、著者からすれば、仮に書籍で稼ぐことを考えていなかったとしても、せっかく執筆し出版した以上、多くの人に読んでもらいたい。内容に自信があればあるほどそう思うはずです。多くの人が読んでくれるということは売上が上がるということにつながります。ここまでは出版社と著者の利害は一致するはずです。そのためにはまず、多くの人の目に留まることが必要になります。ですから、多少派手目なタイトルをつけたり、煽り系なキャッチの入った広告を打つことが一概に悪いことだとは思いません。
■ブランドより目先の売上が大事ですか
しかしこうしたことは、両者の合意の上に成り立つものだと思います。今回の件で僕が一番気になったのは次の一文でした。これが僕の事業遂行上も困ることだと伝えたのに、「申し訳ない」だけ。著者が、自分のブランドが毀損するかもしれないから変更してほしい、といっているのを断っています。しかも、期日は口実にすぎません。少し業界に詳しい人なら、新聞広告は1日前でも変更が可能な場合がある、ということは知っているはずです。変更要請を検討する気は最初からなかったとしか受け取れません。
出版社にとってのブランドとはなんなのでしょうか。ブランドとは、積み重ねられてきた信用の証です。過去にたくさんの良書を出版してきた、という信用が出版社のブランドを成り立たせています。そして当然、良書を書いてくれた「著者」の存在も大切です。著者への信頼が書籍への信頼につながり、それが積み重なることで出版社のブランドは確立されてきたはずです。
ですから、長い目で見れば、著者のブランドを守ることが出版社の利益につながります。著者のブランドが傷ついてしまえば「そんな著者の本を出している出版社なんだ」ということになり、出版社への信用も低下してしまします。
にもかかわらず、著者の要請を断り、広告掲載を行ったということは、目先の売上を確保できればブランドなどどうなってもいい、と考えているのではないか、としか思えません。
「著者候補はたくさんいる。一人や二人のブランドが傷ついても関係ない。」 と思っているのかもしれません。しかし、これは一人や二人の問題ですむことだと思えません。目先の売上に惑わされ、結局はほとんどの著者に対して同じようなことをするような企業文化・企業風土になっていってしまうであろうことは、容易に想像がつきます。
良書が書ける著者からの信用を失えば、良い本は出版することはできず、結局、読者からの信頼も失います。そうなってから、ブランドを回復しようとしても、それは容易にできることではありません。
■他山の石とせよ
ただ僕は、東洋経済を非難するためにこれを書いているわけではありません。我々自身も同じようなこと、つまり、自分の手で自分が築き上げてきたブランドを壊すようなことをしていないか、振り返って考えるきっかけにすべきだと思ったのです。目先の売上を、あるいは利益を確保するために、コスト削減を苛烈にすすめて、結果的に自らのブランド力を弱めている例は、たくさんあります。
例えばサービス業にとってのブランドの源泉はまさに「サービス」そのものの中にあります。そしてその多くは「人」によって提供されるものです。しかし、ギリギリまで人件費を削り、そのことで利益を確保してきた企業のブランドがいまどうなっているか。従業員の信頼を失い、事業の遂行に支障をきたす場面も見られます。そしてそのことでお客様の信頼も失い、売上も利益も今まで通りに確保できない状況に追い込まれている、そんな企業がいくつか、目に浮かぶのではないでしょうか。
こうした危険はすべての企業に内在しています。長い間、デフレ下にあった我々は、目先の売上や利益に目を奪われがちです。
しかしそれは企業本来のあるべき姿ではない。長期に渡って事業を継続していくことを大切に考えるなら、目先の売上や利益よりももっと大切に考えなくてはいけないことがあるのだ、と考えることがいま求められています。
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